古今集と新古今集の間に見られる
歌ことばの変化: 雨と時雨

山元 啓史
東京工業大学

シュビーゾー グリフィン
ワシントン大学

「しぐれ」は
三代集あたりまでの時代では
雨とともに使われることが多く、
新古今の時代では
単独で使われることが多くなった。
どういうことかというと...
「花といえば、桜」
上位の概念の用語で
下位の具体的な用語を示す。
「花は盛なり」
「花」は「桜」を意味する。
上位語 Hypernym
下位語 Hyponym

ただし、これらの名称は
メカニズム(使われ方)や
プロセス(成り立ち)を
いっているのではない。
たとえば
「花といえば桜」となると
「桜」の周知が前提
新古今以前は「梅」の方が
「花」としてよく使われた。
西行の時代より「桜」が
「花」として一般的になり、
「花といえば桜」となった。
しかし、…
簡単に「花といえば桜」..
になったわけではなく、
「花桜」「山桜」「桜花」...など
「桜=花」を示す語(花や山)が伴う。
「花の桜」「山の桜」「桜の花」...
この段階では、単独に使われず、
「桜」に添える語で周知する。
ほかにも…
「桜、咲く」「桜、散る」「桜、舞う」...
など花と連接する用語とともに用いる。
人は「桜」を「花」と認識するのに、
「桜--咲く」「桜--散る」
「桜--花」「桜--山」...
連接関係から「花の一種」と考えるのか?
次のプロセスを考えてみた。

  1. 他の用語と用いる(周知)時代
  2. 単独で用いる(周知完了)時代
  3. 代表的...上位語で示す(熟知)時代


しかし、...ほかの事例にも当てはまるのか?
そこで...
「雨」について考えてみる。
「雨といえば、?」の?は何か。
これに当てはまるケースはあるのか。
変遷には...
時代・場所・領域などなどあるが、

  • 伴う他の語との関連性
  • 発話しやすさ
  • 変遷に必要な期間


などの要因も考えられる。
それ以前に、その語「?」は
すでにその時、周知されていた語か。
調べるべきことは…

  1. 「?」はたとえば何。
  2. 「?」は周知完了の状態か否か。
まず「雨」関連の用語としては
何が多いか?
一番多かった「しぐれ」について考える。
そもそも「しぐれ」「時雨」「しぐる」とは?
  1. 「時雨(しぐれ・じう)」
  2. 「時雨る(しぐる)」
  3. 日本の各地、時折降る雨のこと。
  4. 字面からもそうである。
ただ、和歌では冬そして秋の雨のこと。
さらに、秋の景色(紅葉)を誘う雨のこと。
しかし、これらは「時雨」という
音や文字からはわからない。
あとから語に
つけられた観念か。
「しぐれ」だけでなく、
連接(共出現)を通してみてみる。
連接情報・共起情報を用いれば、
和歌は調査に有利かも。
  • みそひともじ(できるだけ省略)
  • (基本は)話しことば
  • 八代集(300年間)
連接はグラフで見る。
表現域(文)に含まれる任意2語を
ノード・エッヂ・データとして獲得する。

共出現パターン・重み付け


Figure 1 三代集の時代(左)と新古今の時代(右)の「雨」と「しぐれ」
三代集
新古今
パターン重要度 cw < 1σ において
2語は古今集頃は互いに共有するが、
新古今頃となると2語が同時に見られなかった。
古今では両者は使われている。

龍田川/錦をりかく/神無月/
しくれの雨を/たてぬきにして
(古今314読人不知)
君かさす/三笠の山の/紅葉はの色/神な月/
時雨の雨の/そめるなりけり
(古今1010貫之)
重み付けにおいて見られなかった...
新古今に、本当にそういう歌はないのか?
時雨の雨/まなくしふれは/槙の葉も/
あらそひかねて/色付にけり
(新古今582人麿)
時雨の雨/染かねてけり/山城の/
ときはの杜の/まきの下葉は
(新古今577能因)
神無月/時雨ふるらし/さほ山の/
まさきのかつら/色まさりゆく
(新古今574読人不知)
あきし野や/外山の里や/時雨覧/
いこまのたけに/雲のかゝれる
(新古今585西行)
移り変わりをまとめると...
では、新古今以後
「雨といえば、しぐれ」か?
そこまでは...
科学研究費助成金基盤研究(C)
小区分02060:言語学関連
歌ことばの効果的可視化技術と
通時的言語変化記述に関する基礎研究
18K00528(2018.04.01–2022.03.31)
研究代表者: 山元啓史
の助成を得た。